無農薬の梨作りに挑戦する高塚さんが直面している試練とは
こんにちは!自然栽培果樹園の井田敦之です。
一般的に梨栽培において、農薬は不可欠です。農薬を使わなければ、病害虫が実や樹自体にはびこってしまうからです。
梨栽培において農薬使用はもはや常識。生産者も消費者も農薬使用に対して何の疑問も抱くことはありませんが、この常識を打ち破ろうとしているのが荒尾市の高塚さんです。
高塚さんは、独自の栽培方法で最大限農薬を使用せずに梨を栽培する日本でも稀有な農家さんです。
しかし、今日に至るまでは苦難の連続であり、多くの失敗を重ねてきたといいます。
今回は梨栽培に挑戦する高塚成生さんに、これまで直面してきた試練について伺いました。
無農薬の梨栽培に35年以上挑戦している荒尾市の高塚さん
熊本県荒尾市は、梨産地として100年以上の歴史を誇る全国でも有名な地域です。
しかし当然ながら、梨産地荒尾でも農薬の使用は常識です。農薬散布の回数は梨産地にもよりますが、1年で20回~30回ほどと言われています。
高塚さんが無農薬の梨栽培を志したのは、今から35年以上前のことです。親から梨農園を継いだ高塚さんは、農薬の使用による健康被害の懸念を抱いていました。自分の子どもがアレルギー体質だったからです。
アレルギーで悩む人でも「安心して食べられる梨を作りたい」。このような想いから、梨の無農薬栽培に挑むこととなったのです。
しかしながら、梨の無農薬栽培はそんな簡単な道ではありませんでした。
無農薬での梨栽培で直面する最大の試練とは
落葉果樹である梨は、常緑果樹の柑橘などに比べると病気と害虫に弱い傾向があるため、無農薬栽培は非常に難しいといわれています。
高塚さんは、「ずっと病気と害虫の試練は付きまとっている」 と仰います。
代表的な梨の病気の一つに黒星病があります(上写真)。黒星病は春に胞子を飛ばし、実や葉を黒く枯らしてしまう病気です。
また、樹自体にはカミキリムシなどの幼虫が棲みついてしまい、枯らしてしまいます。こうなると残念ながら、樹自体を切らなくてはなりません。樹を切ると4-5年はその場所で収穫ができないので大きな問題なのです。
高塚さんは、年に1-2回開花する前に最小限で農薬を使用します。無農薬で栽培する年もありますが、全ては樹が枯れるギリギリの線を見極めて判断しています。
高塚さんの梨園を見渡すと所々に枯れた梨の樹が見え、その挑戦の痕跡を垣間見れます。
無農薬での梨作りでの試練とは?
無農薬に挑戦してからずっと病気と害虫の試練はつきまとっているという高塚さん。
高塚さんは、「今までの積み重ねがありもう後には引けない、突き進むしかない」と仰っていました。
無農薬のために落葉してしまうことも
2021年の栽培では、 病気や害虫の影響を受けても高塚さんの梨は耐えていました。
しかし8月の長雨により、豊水の葉っぱが落葉。 その影響で 12月には新しい葉っぱが生えてきてしまいました。
これは、来年咲くべき葉が 今年中に咲いてしまったという状態です。8月の落葉により栄養成長から生殖成長の方に傾いてしまったために、 来年咲くべき花と葉っぱが咲いてしまったのです。
こうなると、梨の木は来年実をつけることができません。 高塚さんは現在、 花が咲く前に1-2回だけ農薬を薄く散布しますが、 花が咲いてからは農薬を一切撒かないので、 一定量の害虫が発生します。
梨園の多様な虫たちがその害虫を食べてくれるのですが、今年は長雨の影響を受け、落葉してしまいました。
昨今の異常気象も収量に影響している
地球温暖化が問題になっている近年では、梨の「眠り病」が多発しているといわれています。
眠り病とは、冬場の寒さ不足から起こる病気です。眠り病になると開花が遅れたり、発芽不良を起こしてしまいます。一昨年の栽培においては、新高梨が眠り病になってしまいました。
また、毎年夏から秋にかけて到来する台風も、農園に大きな被害を及ぼします。台風が到来する時期は、ちょうど荒尾ジャンボ梨で有名な新高ジャンボ梨が大きく実っている時期。1個1個の重量が重いため、強風に煽られると落果してしまうのです。
梨農家さんは台風の被害を最小限に抑えるため、風圧を和らげる防風ネットを農園の周りに張るなどし、対策しています。
まとめ
高塚さんの梨園を伺う度に落葉果樹の無農薬栽培は非常にハードル高いと実感します。
高塚さんは、無農薬での梨栽培を実現するには、小手先のテクニックでなく、「土作りが最も大事」だと言います。
その考えのもと 20年以上にわたり梨園の土を作ってきました。除草剤も一切使用せず、草は全て手刈りです。さらに冬になると同じ落葉樹であるクヌギの葉を農園に敷き詰め土作りを行います。
高塚さんは梨の樹の状態を見て 最大限農薬を使用しない方法を選んでいますが、目に見えない所での努力の積み重ねには感心します。
2022年段階で、完全無農薬には、 あと一歩の所まできていますが、まだそう簡単にはいかないようです。
しかし高塚さんは、「誰もが安心して食べられる梨を作りたい」という想いのもと、これからも無農薬の梨栽培に挑戦し続けます。